フィンランドの人たちはどんな家に暮らしているでしょう?
森の中のログハウスをイメージしますか?それは、住宅というより、どちらかというと伝統的な夏のコテージに当てはまります。
私が滞在していたヘルシンキ中心部の住宅のほとんどは kerrostalo(ケッロスタロ)と呼ばれる集合住宅です。規制があるエリアでは、その多くは5階建て程度の低層アパートです。歴史ある建築の高さに合わせているのです。
少し郊外へ足を伸ばすと、テラスハウス(Rivitalo リヴィタロ)や、戸建住宅が多く建ち並びます。
古く歴史ある建築を修復しながら使い続けているアパートから、近現代の都会的なスタイルの家まで様々ですが、家の中に目を向けるとこの土地ならではの暮らし方について、楽しい発見がたくさんありました。
フィンランド発 機能キッチン
とても使い勝手がよく、フィンランドの家の個性を感じたのがキッチンです。
特に流し台の上に設置された、キャビネット一体型の水切りはシンプルで合理的だと思いました。
皿洗いをして水切り棚に置いておけばそのまま乾燥ができ、扉を閉めれば中身が見えずすっきり。突然の来客があっても安心です。
もともとはスペースの節約のために考案されたものだそうですが、いつでも整頓された状態を保ち、気持ちよく過ごせる場所づくりのための工夫だと感じました。フィンランド人自身も「これは便利でしょう!」と自国発のアイディアとして誇りにしているものの一つでもあります。
日本のシステムキッチンでも見かけることがありますが、日本の場合は、仕掛けが繊細すぎる感じがあります。少しくらい雑な使い方をしても壊れそうもない丈夫さはフィンランドの物づくりの特徴の一つかもしれません。
そのほかにもキッチンの中は様々な仕掛けが組み込まれていて、楽しい作りになっています。
カトラリーを収納する引き出しの上にはスライド式のまな板が造り付けられていて、簡単な作業台としても便利。ゴミ箱も足元のキャビネット扉と一体になって収納されているため、取り出しがスムーズです。
毎日の生活に欠かせないパンや菓子パン(pulla プッラ)を作る際に使う、生地のこね台まで用意されています。フィンランドの人たちにとってなくてなならない身近な食べ物だと物語っていると思いませんか?残念なことに最近の住宅ではあまり見かけなくなったそうです。
作業する場所には余計なものは置きません。反対に、普段使いの道具はすぐに機能的に使えるようになっているのです。
この線引きを自然にできるからこそ実現する機能性が現れたキッチンです。
フラットな玄関
玄関にも気候にちなんだ特徴があります。
雪や雨に濡れたコートを室内に持ち込まないために、玄関には必ず上着用のコートハンガーが置かれています。家族の上着がずらっと並び、ニット帽やマフラー・手袋などの小物と一緒に収納しています。家に帰るとここで外の寒さにさよならをして、身軽に暖かい部屋へ飛び込むことができるのです。
外で必要なものは、外の近くに。これだけのことですが、軽快な暮らしが一歩近づきます。
また、フィンランドもで家の中では靴を脱ぐのが一般的ですが、玄関は日本のような段差はなくフラットです。ドアを開けて部屋に入るとカーペットが敷いてあり、そこで靴を脱ぎます。大まかにはこのカーペットの範囲が玄関に当たるものの、その境界は曖昧です。廊下に沿った長いカーペットの場合もあるので、具体的に靴を脱ぐ場所が分かりづらいこともあります。
日本のように段差や素材ではっきりと区別しないので、空間もおおらかに繋がっています。パーティーなどフォーマルな服の場面では靴は脱がずに土足OKだったりと、その感覚もフレキシブル。
バルコニーの鉢受け
バルコニーはとても重要な居場所のひとつです。日本の多くの地域では洗濯物を外に干す場所としての機能もないがしろにできない暮らし方ですが、外干しの習慣がないフィンランドでは、バルコニーは、春夏には食事をしたり、ハンモックを吊るして昼寝をしたり、コーヒーを飲みながら新聞を読んだり…と存分に活用されます。日差しを楽しむチャンスがあれば、上着が必要な気温でも積極的にバルコニーで過ごします。
多くの家ではバルコニーを可動式のガラスで囲っています。雪が入り込まないようにするためでもあり、また、サンルームのようにして少しでも太陽に近い場所で長く過ごすための工夫です。
あちこちの住宅で手摺と一体になったプランターボックスを見かけます。各住戸に花を設えるための鉢受けが用意されていて、家の内側からも外側からも楽しむことができるようになっています。
建物によってデザインは様々で、一つ一つ小さな仕掛けですが、これが街の単位で用意されていることで、街並みを彩る大きな役割を果たしていることがとても素敵だと感じました。
アパートの共用設備と雪払いブラシ
フィンランドのアパートでは、共用設備が充実していると思います。住戸毎に割り当てられた倉庫スペースや屋内駐輪場の他、洗濯場、サウナなどが1階部分に付属しているのが普通です。
洗濯場には通常の洗濯機の他に乾燥機が付いていて、大きな流し台は自宅で洗うのが難しいカーペットや寝具などを洗濯する際に役立ちます。屋外にはそれらを干すための共用物干しも設置されています。
初めて住んだ学生用のアパートでは、サウナは週ごとに先着順で予約をするルールでした。また別の家では、住戸毎に週に1時間割り振られて使うことができました。
サウナは日々のリフレッシュのためだけでなく、友人とのコミュニケーションの場としても使われます。日本の温泉や銭湯とも少し違い、パーティーの場としても使うのです。フィンランドの人たちにとって、なくてはならない大切な、切っても切れない親密な設備なのです。
ささやかな共用道具もご紹介します。アパートの入口に置かれているブラシ「Rappuralli ラップラッリ」です。これは靴についた雪や泥を払うための置き型ブラシで、左右下3面の汚れを一度に落とすことができます。素っ気なく機能的な佇まいが、なんとも可愛らしいでしょう?
フィンランドの現在のお宅を垣間見るには、現地の不動産屋さんのホームページを覗いてみるのも面白いかもしれません。
カーペットを洗うための桟橋
市内にも住民でシェアする設備があります。mattolaituri マットライトゥリと呼ばれる公共のカーペット洗濯場です。マットライトゥリは「カーペットの桟橋」を意味します。よく散歩に出かけた Munkiniemi(ムンキニエミ)のカフェの名前もマットライトゥリでした。
「桟橋」のその名のとおり、洗い場は湖に浮かんでいて作業台と水を絞るための機械・乾かすための干し台などがセットになっています。
ひと仕事終えたら隣のカフェで一息!という週末が夏の天気の良い日のアクティビティでもあるのです。
湖が生活のあらゆる場面に寄り添っていると感じさせる象徴的な場所でもあります。
草稿: まり子
編集・ライティング: LAMPIONAIO, Etsuko